奥村晃作 おくむら こうさく(一九三六年~)
ボールペンはミツビシがよくミツビシのボールペン買ひに文具店に行く
もし豚をかくの如くに詰め込みて電車走らば非難起こるべし
これ以上平たくなれぬ吸殻が駅の階段になほ踏まれをり
わたくしはここにゐますと叫ばねばずるずるずるずるおち行くおもひ
一日中時間を持つになほ忙しわれはどこかがまちがつてゐる
然ういへば今年はぶだう食はなんだくだものを食ふひまはなかつた
次々に走り過ぎ行く自動車の運転をする人みな前を向く
ぐらぐらと揺れて頭蓋がはづれたりわれの内側ばかり見てゐて
洗濯もの幾さを干して掃除してごみ捨てて来て怒りたり妻が
歩かうとわが言ひ妻はバスと言ひ子が歩こうと言ひて歩き出す
巨きなる帚の先で自動車を掃き集め海に捨てて来しゆめ
あの鶏はなぜいつ来ても公園を庭の如くに歩いてゐるか
舟虫の無数の足が一斉にうごきて舟虫のからだを運ぶ
ラッシュアワー終りし駅のホームにて黄なる丸薬踏まれずにある
イヌネコと蔑(なみ)して言ふがイヌネコは一切無所有の生を完(まつた)うす
不思議なり千の音符のただ一つ弾きちがへてもへんな音がす
犬はいつもはつらつとしてよろこびにからだふるはす凄き生きもの
梅の木を梅と名付けし人ありて疑はず誰も梅の木と見る
海に来てわれは驚くなぜかくも大量の水ここにあるのかと
母は昔よい顔してたが現在はよい顔でないことの悲しさ
百人の九十九人が効かないと言ったって駄目 オレには効いた